低身長について
小児科の中でも、そろそろ内分泌の分野も書いてみようと思います
なお、この記事は2021年3月時点のもので、今後適応疾患などが変わることはありえます
低身長について
低身長とは
一般的に大人で身長が低いと言うと、平均より10cmくらい低いとかそんなイメージでしょうか
下の図は実際に使用する成長曲線です
定義から言うと、上記の成長曲線のグラフで各年齢の-2SD未満のお子さんは低身長ということになります
多くは3歳健診で引っ掛かりますが、早い人は一歳半健診で受診をすすめられることもあります
割合としては100人いれば2-3人が低身長となります
成長曲線は下記からダウンロードできます(勿論女子用もあります)
低身長の原因
多くの低身長は病気が原因ではありません
両親から受け継いだ/その子の生まれ持った体質であることが多いです
勿論遺伝だけでなく、環境要因も重要です
下記に原因を羅列してみます
①体質性(特発性)低身長
②低栄養
③虐待
④成長ホルモン分泌不全(脳腫瘍含む)・甲状腺ホルモン分泌不全
⑤染色体異常・遺伝子異常
⑥骨系統疾患
⑦SGA性低身長
⑧慢性疾患による低身長
⑨思春期の開始時期に伴うもの
⑩ステロイドなど薬剤性
一つずつ見ていきましょう
①体質性・家族性低身長
持って生まれたもので、病気ではありません
低身長の7-8割は体質性・家族性の低身長と言われています
現在の日本では保険診療で認められている治療法はありません
(海外では成長ホルモンを使える国もあるようですが)
②低栄養
哺乳不足、栄養の偏り、過度なダイエットなどで身長が伸びなくなります
この場合は体重増加不良も伴うことが多いです
まずは外来診療ですが、ひどい場合は入院で栄養指導を行うこともあります
③虐待
残念ながらこのようなケースも0ではありません
肉体的に栄養が足りない場合だけでなく、精神的に強いストレスを受ける場合も身長がとまることがあります(愛情遮断症候群と呼ぶことも)
④成長ホルモン分泌不全・甲状腺ホルモン分泌不全
ホルモンが足りないことにより、低身長となります
足りないホルモンを補充することが治療となりますが、脳腫瘍などの場合は手術や放射線療法などが必要となることがあります
⑤染色体異常・遺伝子異常
Turner症候群、Prader-Willi症候群、noonan症候群、その他の症候群
原疾患に対しての根本治療はありませんが、低身長に対しては疾患によっては成長ホルモン補充の適応となることがあります
⑥骨系統疾患
軟骨異栄養症(無形性、低形成)など骨の病気では低身長となります
疾患によっては成長ホルモン補充の適応です
⑦SGA性低身長
週数に比して小さく生まれた子供をSGA(Small‐for‐Gestational Age)とよびます
極端に言えば、妊娠40週なのに2000gの子などが該当します
8割程度は三歳ころまでに成長曲線で-2SDまで上昇しますが、戻らない方もいます
成長ホルモン補充の適応です
⑧腎不全など慢性疾患による低身長
まずは基礎疾患の治療を行います
成長ホルモン補充の適応です
⑨思春期の開始時期に伴うもの
思春期の開始時期が早ければ、一時的に高身長になるものの最終身長は低めに
思春期の開始時期が遅ければ、周りの成長についていけなくなるので相対的に低身長になります
思春期については、また個別にまとめようと思います
⑩ステロイドなど薬剤性
ステロイドは良い薬なのですが、長期に服用すると副作用はどうしても出てしまいます
どのような時に病院を受診すべきか
乳児検診で指摘された時:一歳半健診や三歳健診
成長曲線から逸脱する時:下図
https://www.kids-forest.jp/Pediatric-Endocrinology.htmlより引用
必ずしも一致しないこともありますが、大雑把にわけるとこんな感じです
A:④
B:②、③、④
C:⑨
D:⑤、⑥、⑦
一番多い①がどこにも分類されていないですが、多くの場合は曲線に沿って伸びていくことが多いです
低身長の検査(主に成長ホルモン分泌不全)
生まれてからこれまでの成長曲線がかなり大事です
(上で述べたようになんとなく疾患のあたりをつけたりも可能です)
他には特徴的な顔貌や身体所見、四肢のバランスなどを確認します
受診時
血液検査(各種ホルモンや栄養状態)、レントゲン検査など
成長ホルモンは時間帯によって変動したりするので、ワンポイントの血液検査では判断が難しいです。薬を投与して、それに対する体の反応を見ます。
一種類だけではなく、二種類以上の負荷試験で成長ホルモンの分泌を確認します
なお、成長ホルモンの負荷試験中は絶飲食(糖分の入っていない水・お茶はOK)です
低身長の治療
乳幼児期
まずは栄養状態やホルモンの状態などを確かめて、問題があればそこを是正します
また、良好な食事・睡眠・運動を心がける必要があります
負荷試験で成長ホルモンの分泌不全が確認されれば、成長ホルモンの投与を開始します。
残念ながら飲み薬はなく、注射での治療となります。
今のところは一日一回の注射が必要ですが、いずれは週に一回の投与で良くなるかもしれません。
色々サプリなどありますが、医学的に効果が認められているのは成長ホルモン治療だけです。
思春期
保険診療:乳児期と大きく変わりません
思春期早発症に対しては思春期の進行をとめる治療を行うことがあります
自費診療:病院によっては選択肢を提示してくれるところがあるかもしれません
いくつかの学会発表や論文で有効性が示されている薬剤も男子の場合はありますが、保険適応ではないため、詳細は主治医に直接確認していただいた方が良いでしょう。
終わりに
何か疾患が隠れていることもありますので、健診や学校で低身長を指摘された場合は医療機関を受診するようにしてください
しかし、低身長そのものは病気ではありません
親が身長にこだわりすぎず、本人も個性として捉えていけるのが理想です